| あいつが水着に着替えたら |
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しばらく泳ぎまくって、ある程度満足した俺は海からあがった。 高校の頃、水泳部で毎日キロメートル単位で泳ぎまくっていたとはいえ、大学生になった今、けっこう体がなまってるのがわかる。 まぁ、夏の終わりに引退してたから、1年近いブランクか。 そんなことを考えながら、のんびりと奴のいるパラソルの所まで戻る。 疲れたといって先に戻っていた清彦がそこにいた。 周囲の喧騒をよそに、おだやかな寝息を立てて…… ![]() ![]() 今朝、突然俺んちに押しかけてきて、『海に行きたい!』って、ガキのようにこいつが駄々をこねるから、しょうがなくこんなとこまで、エッチラオッチラ電車乗って来たんだけど、すぐに、「疲れた。あっちに戻って休んでる」って海から上がって、 ……それでこれだもんな。 常識的に考えて、この状態ってのまま、ってのもなんなんで、いちおう体にバスタオルをかけておいた。 かたわらの少しぬるくなったビールを、口に流し込む。 砂浜の向こう、ふりそそぐ光の中、きらめきを放ちながら砕ける波。 おまえの心の中で、 この風景はいったいどんな景色に見えてるんだろう…… Part.01こいつとはガキの頃からの遊び友達。でも高校を卒業して別な大学に進んで、もうこいつとつるむこともなくなるんだろうな、って思ってた7月。 気象予報士のネェちゃんが、いまいちな服で梅雨あけ宣言をした朝、奴から突然、会いに来るっていうメールが来た。 昼、暑苦しさを助長するようにセミがわめきたてる中、呼び鈴がなった。 俺は出迎えるために玄関のドアを開ける。 しかし奴はそこにいなかった。 ポツンと立っていたのは同い年ぐらいの細身の女の子。 ふちに飾りのついた麦わら帽子。ノースリーブの白のワンピース。 編み上げの籐のボックス手提げ。足元はローマの奴隷風味サンダル。 中々に可愛いとは思ったが、こんなコ、残念ながら俺の知り合いにはいない。 「えっと、どちらさまですか?」 「わかんないよな、やっぱり」 「えっ」 「俺だ、清彦だよ」 なに言ってんだ、この女。だいたい男だぞ、清彦は。 ……そうか、夏だよな。そう、夏になったんだよな。 こういうのが、ネットだけじゃなく街にもわいてきてて。 運命は残酷だよな、こんな可愛い顔してんのに…… 「おまえ、違う方向に誤解が進んでるみたいだな。 仕方ない、やっぱりこれしかないか……」 女はそういうと、伸び上がるようにして俺の頭を抱え込む。 そのまま片手で締め上げて、もう片方の手をこぶし状態でグリグリと、 「や、やめろ、ばかやろ! 清彦! それは反則だって、いつも言って……」 女の手が離れる。 「わかって、くれた、ようだな」 女にとっても大変な力作業だったのか、激しく息が切れてる。 ……マ、マジかよ。 あの反則ワザは、たしかに清彦の得意技で。 でもさ… それって… なんか… 「考えるのあとにしてくれないか? 暑いから、とりあえず家ん中に入れて欲しいんだけど……」 Part.02「…というわけなんだ」なるほど…… って、勝手に時間飛ばすな! だいたい、ダイニングに座って麦茶を一口飲んだ瞬間にそれはない! 「はは、悪い。あまり、思い出したくない話なんでつい」 ついじゃねぇだろ。ついじゃ…… 奴は3週間前に突然40度近い高熱に見舞われ、緊急入院した。 そして翌日、採取した奴の血液中からTSウィルスが発見され、本人と付き添いの家族にそのことが告げられる。 「ガキの頃の、おたふくカゼやったときを思い出したな。 ほんとにしんどくてさ。体フラフラで半分意識飛んでて。 で、熱がさがったらTS病ですって。真面目な顔で医者が。 なんかなぁ、ひでぇよなぁって。 まだ童貞だったっちゅうに…… 何が悲しくて処女にならなければならないんだぁ〜〜っ!」 「まぁ、落ち着け。飲め」 俺は麦茶をついでやった。 奴はグイッっとグラスを空けた。漢だ。 「んで、一週間入院したら、すっかりオニャニャノコの出来上がり。 正直こういうコは好きなタイプなわけだけどさ、 ヒック、 ……こういうコになりたかったわけじゃねぇんだよ〜〜〜っ!!!」 泣きながら絶叫する清彦の肩を、仕方なくトントンしてなだめる俺。 奴は俺の肩にもたれて、声をあげて泣きはじめた。 そして三日後の今朝、奴は俺の家に来て、海に行きたい、とわけのわかんないことを言い出したのだった。 最強の水着を用意したと豪語する清彦は怪しさがさらに倍。 ただ、俺としても、奴が三日前とは別人のように、アグレッシブな姿勢に変わっていることに密かに安堵し、古くからのダチとしてその頼みを喜んで承諾した、というわけだ。 Part.03「くぁ〜っ! 寝たぁ〜!」雄叫びとともに清彦が目覚める。 やめんかい! ほらみろ。周りの連中が驚くこと驚くこと。 「なんか、やたらあっちぃと思ったら、こんなもんが」 バスタオルを見て、ビールを抱えた俺を見て、一瞬の空白があった。 「……ごめん、気をきかせてくれたんだな、これ」 「いや、べつに」 「これ、飲むか? 起きぬけはうまいぞ?」 「いや、遠慮しとく」 「だよな」 俺は笑った。 そんな俺の言葉に、清彦はあからさまにイヤな顔をした。 昔、まだ高校2年の頃、家で奴とビールを飲んだことがあった。 コップ一杯飲んだとこで、奴は腰掛けた椅子ごと横にぶっ倒れた。 多分今も、たいして事情はかわってないはずだ。 「でもな、おまえ、あんまり前と変わんないな、俺がこんなんでも」 コーラを口にしながら清彦がそういう。 「そりゃそうだろ。 確かに見た目、女の子には違いないんだけど、 『俺っコ』じゃ萌えられんだろう、普通。 そして中身が100%男だとわかってりゃ、なおさら無理」 「まぁな」 しかし、そんな俺たちの思いとはうらはらに、 周囲の男たちの視線はやたら熱かった。 ただ、男連れの女に声を掛ける奴なんているわけない。 「そういや、名前、変えるんだったよな?」 「あぁ」 「決まったのか、もう」 「あぁ」 「言えよ」 「ちょっとなぁ」 「いいだろ、どうせわかることだし」 「まぁな」 清彦は遠くの海を見つめてる。 「ななみ」 「?」 「七つの海って書いて『七海』」 「そっか……いい名前じゃん」 「そう思うか?」 「あぁ」 「そうか……」 「大学とかはどうなりそうなんだ?」 「そこは全く心配いらないようだ。 結構、特例法が至れり尽くせりになってて、 戸籍から学籍簿から、クレジットカード関係まで、申請だけでOKだから、 来週提出すれば9月までには全部切り替わる、問題なく」 「で、ひとつだけ、でっかいのが残っちまうんだな」 「そうなる。一番やっかいな奴がな……」 「結局、秋に高瀬七海って奴がこの世に生まれ、 高瀬清彦は、おまえの記憶の中に残るだけになる、ってことで。 まぁ、両方足せば年数的には他のやつとは変わらないんだが、 本人的には足し算じゃ納得できないな、やっぱり」 そう言って、奴は残ったコーラを一気に飲んだ。 そこでムせなければ、かなり格好よく決まったはずだったんだが…… Part.04「いいよなぁ〜」帰りの電車の中、ドアのとこに立ってる俺たちを、学校帰りとおぼしき高校生の集団が見てる。 さっきのは多分、俺と七海のことを言ってるんだろう。 真実を知らないがゆえに幸せなことがある。 どこかの哲学者がそんなことを言ってたが、これもそのうちのひとつだろう。 ま、勝手に誤解させておくか、俺には関係ないことだし。 そのとき、俺の腕に何かがからんだ。 なにかと思えば、七海の腕だった。 そのままつま先立ちしてのびあがった奴が、俺の耳元でささやく。 「青少年には、激しく勘違いしてもらおうじゃないか」 そういって俺に向かってニコッと微笑む。 どう見たって、カップルが甘い会話をしてる光景だ。 こいつ、あいかわらず性格は最悪だ。女になっても変わってない。 そして今度は力いっぱい俺との距離をつめてきた。 完璧を期そうとする七海の意図はわかるが、俺としてはちょっと困った事態と言える。 そう、それなりにある七海の胸が、しっかり当たってるわけで。 さすがにこれはクレームを申し入れるべきだろうと思った瞬間に、おんぼろの電車が激しく揺れた。 踏ん張りの利かない七海が倒れそうになる。 とっさに七海の腰を片手で抱きかかえて支える。 さすがに恥ずかしかったのか、揺れが収まったとき七海は自分から離れた。 「ありがと」 そう言う七海の顔が心なしか赤いのは気のせいか? そう、気のせいにしておいたほうが無難だろう。 と、俺の頭の中のやつが間髪を入れずアドバイスをよこした。 とりあえずそのお言葉に俺は従った。 揺れる電車の中、微妙な距離で立つ俺たちは、落ちてゆく夕陽を無言で見てた。 「恋なんて金輪際できねぇな、こんなんじゃ」 「だってさ、男に惚れたらホモで、女に惚れたらレズ。 俺の人生がそんな腐女子系小説みたいな選択肢しかないなら、 結局、独身でいるしかねぇよな」 「いいんじゃない? 男騙しちゃえば。ついでに自分も騙して」 奴は無言で俺をにらみつけた。 「あ、悪かった……」 「いや。それが出来れば楽だっていうのは、わかってるさ、 頭の中では、十分、わかってるんだ……でもな」 「時間がいるだろ、なんにしても」 「だな」 「相談にはのるよ、いつでも。 七海ちゃんでも清彦君でも、俺の友達にはかわりないし」 「……ありがとよ、まじで涙出そうだ、おれ」 Part.05「おかぁさ〜〜ん!」3歳になった陽菜がなにかを持ってこっちに駆けてくる。 まだまだバランスが悪く、見てるこっちがひやひやする。 たどりついた陽菜を七海が抱きとめる。 そうしないと、顔から砂地にダイブしそうな勢いだった。 「どうしたの?」 「ほらこれ」 開いた手には綺麗な色の巻貝がのっていた。 「きれいでしょ?」 「うん、とっても。陽菜が自分で見つけたの?」 「そうだよ」 「すごいすごい、陽菜は宝探しの名人だね」 母親に褒められて陽菜は得意そうな顔をしている。 七海のひざの上に座り、手の中で楽しそうにその貝殻をころがす。 遥か昔、『最初の夏』に、俺と七海はここに来た。 そしてあの日から10年の時が流れた。 相変わらずこいつは俺のそばにいる。 そして間違いなく俺たちは同じ景色を見てる…… 同じ夏の海を…… 寸分たがわぬ同じ心で…… Part.06大学三年になる頃、その頃にはもう彼女に対するケアも必要なくなり、もっぱらメールでのやりとりをするぐらいになっていた。本当のところ、奴がどんな心境にあるのかは知る由もなかったが、自らの人生に対して迷ってる様子は微塵もなかった。 当時の七海の趣味は、言い寄る男を容赦なく振ること。 あんだけの顔とスタイルが揃っちゃ、誘蛾灯にひきよせられるように、男どもは群がるのは当然のことで。 毎週のように来る撃墜報告メールに、おれは、ほどほどにしておけよ、と返すことが多かった。 選択肢のない七海に、当然あるだろうと予測して選択を迫ってくる男たち。 あいつの気持ちがわかるだけに、俺としても強くは言えなかった。 そして就職活動とゼミの仕上げに追われるうちに、いつしかメールの数も減っていった。 気付いてはいたが、これでいいんだろうと俺は思っていた。 多分アイツのために俺が果たすべき役割は無事にすんだのだと。 卒業をして、俺も彼女も普通に勤めを始めた。 たまには会おうということになって、初給料の日には待ち合わせしてメシを食った。 当然の如くワインを飲んだのは俺だけで、奴はノンアルコール飲料。 その日、笑顔の七海を見て、俺は嬉しかった。単純に。 Part.07社会人になって一年、俺は家を出て一人でアパート暮らしをしていた。初給料で一緒にメシを食って以来、七海と会うこともなく、メールもほんとにときたま、やりとりするぐらいになっていた。 夜中、ふと目が覚める。枕もとの時計は一時過ぎ。 誰かが俺の部屋のドアを激しく叩いてるようだった。 ったく、近所迷惑なことこの上ない。 誰であろうと問答無用で殴ってやろう、と思いながらドアを開ける。 そこに立っていたのは七海だった。 口をへの字に曲げて、ぼろぼろに涙を流して、立ち尽くす姿を見た瞬間、俺はそのまま彼女を抱きしめていた。 七海の体は思った以上に華奢で、力をこめたらポキッって音を立てて折れそうなぐらいだった。 落ち着いた所を見計らって体を離す。 「入れよ」 「でも」 「いいから入れ!」 何に対していらだっているのかもわからないまま、俺の口調は強くなっていた。 いや、ちゃんとわかっていた。 七海をこんな姿に変えた、『誰か』に対して怒りを向けていたんだって。 おずおずと弱々しい姿で入ってくる七海。 タオルを渡して洗面所に連れて行く。 「顔洗えよ。ひどすぎだ。今の顔、まるでお化けだぞ。 メイクとったら見たことない別人になっちゃっても、 俺は驚かないから安心していい」 「……ばか」 泣き顔に少し笑顔が戻った。 顔洗って戻ったら、すっきりした顔になっていた。だいぶ落ち着いたようだ。 「で、なにがあったんだ? まぁ、言いたくないなら別にいいんだけどな」 七海は俺の渡したコーヒーカップを両手で抱え、うつむいていた。 ようやく顔を上げた彼女は、ここに来るまでのことを話し出した。 Part.08ここんとこ彼女は、同じ課の同僚とペアで物件を処理してて、無事に終わった記念に、今夜そいつと二人で打ち上げめいた食事をしていた。七海としても、開放感と達成感を共有する同僚と、仕事場を離れ、ゆったり会話を楽しんで…… そう、それだけで終わるはずの夜だった。 しかし、気づいたら自分はベッドの上で、両手を押さえられてて、まん前にはそいつの顔があって、なんとか逃れようとする七海に男の唇が間近に接近してて、 「とっさに出たの、膝蹴りが。倒れたそいつ、泡吹いてた」 目の前の七海は、少なくとも高校卒業までは、格闘系大好き少年だった。 女になり筋力が低下していたとはいえ、狙いは正確だったのだろう。 不謹慎とは思ったが、俺はその男に深く同情せざるを得なかった。 あわてて部屋を飛び出したそのあと、七海は混乱した状態のままあてもなく夜の街を歩いた…… 「そしたらだんだん、なんかすごく悔しくなってきたんだ。 だって、あのままいったら、私は好きでもなんでもない奴に、 やられてたんだよ? わかる? 私の意志なんか全然関係ないんだよ?!」 「……あなたと海に行ったあの日、私は女になるって決めた。 でも、こんなことを望んでたんじゃない。 ただセックスが出来る人形みたいに扱われて、そうして……」 「それが女だっていうなら……私は女になんか……なりたくなかった」 七海の悲痛の叫びを前にして、俺は言葉を無くした。 Part.09「今夜、私、泊めてくれない? ここに」無表情のままの七海がボソッっとそう言う。 「帰りたくないの、一人っきりの部屋に」 それで俺のアパートに…… そういえば、最近こいつも一人暮らしを始めたって言ってた気がする。 気持ちは分かるが、その申し出は却下せざるを得ない。 「どうして? どうしてダメなの? あ、もしかして」 いや、そういうのはいない。そういうことじゃないんだ。 「じゃ、はっきりいっちゃうと……『迷惑』? というか、一人前の女にもなれない、半端な、 生きててもしょうがないような、こんな女なんていらなくて、 あなたにとっても、多分ずっと前から邪魔なだけの存在で」 七海の頬が大きな音を立ててからはじめて、自分が彼女を殴ったことに気づいた。 「ごめん」 謝るしかなかった。最低だ、俺。ほんとに。 こんな日に、これ以上彼女を傷つけてどうするんだよ、ばか! しかし、泣くだろうと思った彼女は、ただじっと俺を見つめていた。 その二つの瞳に、怒りの表情も、悲しみの表情もなく。 「痛かった、すごく」 片手で、赤くなった頬を押さえる。 「でも……うれしかったよ」 言葉と一緒に、そこにあったのはささやかな微笑み。 「私が清彦のままで、そしてあんな風にヤケを起こしてたら、 多分、あなたはおんなじようにしてた。でしょ?」 ……あぁ、多分な。 「それ、ちゃんとわかったから」 「そっか」 「わかったところで、あらためて」 「?」 「……今夜泊めてくれる?」 全然わかっちゃいないじゃねぇか! Part.10「だから、こっからむこうがあなたで、こっからこっちが私。領海は互いに侵犯しないこと。いい?」 座布団がふたつ、ベッドの真ん中に二つ折りで立ってて、どうやらそれが国境線ということらしい。 はいはい。了解了解。 しかし、この年齢になって、子供の遊びに付き合わされるとは思わなかった。 「じゃ、おやすみなさ〜い」 「おやすみ」 ま、いいか。これで彼女が落ち着きを取り戻せるなら。それはそれで。 すぐそこに下着だけの女が居ると思わないようにすりゃいいだけのこと。 かんたん、かんたん。超かんたん。 ……だから簡単だって言ってんじゃねぇか!! 理解しろよ、オレ! しばらくして座布団のむこうから規則正しい寝息が聞こえてきた。 それとともに俺のほうも睡魔に襲われる。 寝込もうとする、その瞬間だった。 「起きてる?」 「寝た」 「そこをなんとか」 「寝た」 「じゃ、寝ちゃった人でもいいから……えっと、手、つないでくれる?」 ま、その程度ならいいかと思って、許可する。 座布団をずらす音。ごそごそと手の這いずる音。 触れてきた七海の手をそっと握り返した。やっぱ小さかった。 「今度こそお休み」 「おやすみ」 「ところで、女の子と手をつなぐのは初めて?」 「黙秘権を行使します」 「へぇ〜 初めてなんだ」 「もういいから寝ろ。修学旅行の小学生じゃないんだから。 明日は早起きしてお前のアパートまで車で送り届けて、それから出勤。 だからいい加減に寝てくれないか? 頼むから」 「へいへい、わかりました、旦那様」 やっと寝てくれたのはいいけど…… 余計なことを言うから、変な妄想に俺は悩まされることになった。 Part.11翌朝、途中でドライブスルーに寄り、車の中で朝食をとりながら七海のアパートに向かった。途中で、俺の唇に付いたケチャップをふき取ろうとして、俺の顔にナプキンを持った七海の顔が異常接近したため、反対車線に飛び出しそうになったのは、さして重要な問題ではない。 アパートの前につく。 「ついたぞ」 「うん」 ドアが開く。助手席から外に出ようとして七海がふと止まる。 頬に何かが触れた。そしてチュッって音。 あわてて七海の方を見る。 「ありがと、ほんとに。今のはゆうべのお礼ということで。 ねぇ、こんど一回、ゆっくり会おう?」 「……あ、あぁ」 「じゃ、また」 呆然とする俺を残し、七海はエントランスに吸い込まれていった。 その日の昼休み、俺はメールを出した。週末に会おうって。 ちゃんと話しておきたいこともあるから、と、そう書き添えて。 返事は1分も経たない内に帰ってきた。 「よろこんで〜」 それじゃ居酒屋だろうが。 Part.12「お待たせ」「和風ベースの創作居酒屋にした。ゆっくり歩いてちょうど予約の時間ぐらい」 「じゃ、のんびり、行こっか」 そう言いながら、七海はさりげなく俺の腕をつかんだ。 それがさも普通のことであるかのように、俺もそのまま歩き出す。 こいつも、そして俺も、もう今は自分に嘘をつくのをやめてる。 多分、これで合ってる。確信めいたものが俺にあって、それは七海も一緒で。 お店は個室。向かい合わせに座る。 ここは料理もそこそこよくて、なにより淡白な味付けが女性にうけてる。 料理が来る前に、彼女には俺の気持ちを伝えた。 七海も頬を染めながら、ちゃんとお付き合いしたいと答えた。 「そういえば、おまえ、例のお持ち帰り事件のときさ」 「あ、あぁ、あれね」 湯葉の刺身を食べながら七海が答える。 口いっぱいに頬張るその食べ方は指導が必要だと思えたが、あえてその場で問題にするのはやめて、話をつづけた。 「あんときおまえ何飲んでた?」 「え? 飲み物? えっと、確か… カンパリソーダって言ったかな」 「なるほどね」 「?」 「それ、リキュールベースのカクテル。つまり弱いけどアルコール入り」 「え〜〜っ!!」 俺は、カクテルの名前を七海に教えることにした。 なにせ、これから先のことを考えると危なすぎるし、この件は。 食事が終わり、ちょっと散歩することなった。 「おまえさぁ」 「なに?」 「ちょっと当たってるんだけど」 「あぁ、これね」 言葉とともにさらに押し当ててくる。 「わざとだし」 気がつけば公園。いいタイミングだ。 俺は横にいる小悪魔をこらしめてやろうと思い、こちらに向きなおらせ、両腕をつかんだ。そしてその目をじっと見つめる。 七海は大きく目を見開いたまま凍ってた。 いまどんなシーンなのかわかってないな、これは。 口ほどにもない奴だ。 「ここは目を閉じるとこだ」 俺の言葉にあわててシャキーンとまぶたを閉じる七海。 七海との初めてのくちづけは激しく俺の脳をとろけさせた。 多分彼女のほうもおんなじだったのだろう。 七海のひざがガクッとなり倒れそうになって、あわてて支える。 「大丈夫?」 「うん、まぁ」 駅に向かう道、七海も俺もずっと無言だった。 もう、すごそこが改札口。 俺は立ち止まり、七海に尋ねた。 「俺んち……来るか?」 七海は無言のまま小さくうなずいた。 Part.13このフロアまでたどりつき、玄関のドアを閉めた瞬間に、俺たちはどちらからともなく抱き合い、くちづけを交わした。もう我慢が出来なくて、そうするしかなくて。 「大好き」 「俺もだ」 それだけつぶやいて、また唇を重ねる。 キリがない。そう思った俺は一気に七海の体を抱き上げた。 「ちょ、ちょっと」 「うるさい」 そのまま、靴を脱ぎ捨て七海のパンプスを玄関に放り投げ、寝室のドアを足で蹴飛ばし、ベッドに突入した。 七海をベッドの上に座らせ、後ろから抱きしめる。 ノド元にキスをすると、感に耐えないようにのけぞる。 ブラウスをたくしあげ、ブラ越しに両胸をつかむ。 「あっ!」 七海が思わずと言った感じで声をあげた。 スーツのジャケットとブラウスを脱がし、そばの椅子に掛ける。 そのままブラをはずした。 七海はあわてて両腕で胸を覆う。 俺は手を添え、引きずりおろそうとした。 「はずかしい」 七海が小さな声で抗議する。 それではと、無防備な背中にキスの雨を降らせることにした。 彼女は唇が触れるそのたびにビクンビクンと体を震わせる。 しばらくそうしていると、腕の力が弱まっているのがわかった。 迷わず両手で胸をつかむ。彼女の手が俺の腕を強く握り締める。 手のひらの中で柔らかいものが自在に形を変える。 たよりなさが不思議だった。 手のひらを一度離し、指で乳首をそっと撫で上げた。両方とも。 七海は「キャッ!」と声をあげ激しくのけぞった。 そしてもう一度。 「ダメッ!」 あまりにも官能的なその声に、俺の余裕がどんどん失われていくのがわかる。 俺は、七海を横にして、下半身を覆うものをすべて取り払った。 布団をめくりシーツの上に寝かせ、タオルケットをかける。 大急ぎで服を脱ぎ、枕もとのコンドームを確認した。 Part.14タオルケットの中にもぐりこむと、七海が抱きついてきた。彼女を上から抱きしめる。再び長いくちづけが始まった。 俺のからだの一部が激しく力を得て、七海の太ももにぶつかる。 「あたってる」 唇を離すと、七海が恥ずかしそうに、そう言った。 「わざとだし」 「バカ、えっち!」 俺の頬をぶつ真似をした。 正直、膝蹴りじゃなくてラッキーだと思った。 体をずらし、右手を七海の太ももの奥へと進める。 彼女はおれに抱きついて恥ずかしさをこらえている。 陰毛の感触のあと先へ進もうとしても、ぴったり閉じられたももが邪魔をする。 手をねじこむようにすると、あきらめたのか少しずつ両足が開き始める。 なにがどうなってるのか全然わからないので間近で見たいとは思ったが、七海がかなり恥ずかしそうにしてたから、それはあきらめることにした。 指が触れると、俺を抱きしめる両腕にグッっと力が入り、「アッ!」という声が聞こえる。 触れるか触れないかぐらいで、上から下へ、下から上へ、と愛撫を続けた。 しばらくそれを続けるうちに、七海は怪しく腰をくねらせ始めた。 思いついて顔の位置をさげて、胸の前へと動かす。 乳首を唇に含みながら、舌でころがす。左右、交互に。 「ダ、ダメッ! イヤ! そんな」 波打つように体が跳ねて、痴態を見せる七海。 そのとき右手に温かいものが触れた。 合わさっていたものが開いて、中から粘り気のあるものが…… 七海も気付いたのだろう、胸のところにある俺の頭を、力いっぱい抱きしめて、恥ずかしさに耐えている。 そんな彼女が愛おしくなって、というかおれ自身がもう限界になって、枕もとに手を伸ばし、それを装着する。 彼女の上に乗り、キスをし、耳元でささやいた。 「つけたから……心配いらないから」 七海は一瞬なんのことかわからずにキョトンとしていたが、理解したのだろう、俺の胸に顔をうずめてギュッと抱きしめてきた。 Part.15少し入ったと思われるとこで、七海が「痛い!」と叫びだし、俺の胸を押して遠ざけようとする。しかし、かまわず奥へと向かう。 「いやだ! やめて!」と騒ぐ七海は上へと逃げ出そうとし、ベッドのボードにたどりついて逃げ道を失う。 そのまま一気に押し込む。 「ギャッ!」というような悲鳴が聞こえた。 見れば相当に痛かったのか、しっかり閉じられた七海の目からは涙がこぼれていた。 指でそれをすくう。 大丈夫か、なんて聞かなかった。これで大丈夫なわけがない。 そのかわりに、キスをし、頭をなでた。 まだ痛みがあるのだろう、俺のものを包む七海の粘膜が、時折ひきつるように痙攣する。 気付けば、七海の目が開いて俺を見つめていた。 「……すごく痛かった」 「あぁ」 「……でもすごく嬉しい」 「そっか」 「七海? 悪いんだけど、もうちょっと我慢してくれる? 多分すぐ終わるから」 俺はそういってから腰を動かす。 痛みがあるのだろう、七見の顔は時々ゆがむ。 そして終わりに近づく頃、七海が突然声を上げ始めた。 「もっと! ねぇもっと!」 多分何かが、痛みじゃない何かが彼女を支配してる。 請われるとおり、俺は遠慮なく腰を打ち付ける。 そしてフィニッシュを迎えたとき、俺の背中にあった彼女の両手は、ベッドのシーツを握り締めていた。 同時に七海の口からけもののような声があがる…… ふるえながらのけぞる首筋が薄明かりに白く浮かび、俺はその官能的な景色の中で大量の精液を七海の中へと注ぎ込んだ。 おそらくコンドームがなかったら、100%命中したに違いないほどの、濃厚な奴だったと思う。 その夜から先の話は、別にとりたてていうほどのことでもない。 二人で両方の親に挨拶をしにいき許可をもらって、結婚式をやり、そして苗字をそろえて。 いつか娘も生まれ、無事に育ち。 そんな普通の幸せをいくつも手に入れた上で、俺と七海は再びここに来ている…… Epilogue宝探しに行ってた陽菜と七海が戻ってきた。はしゃぎすぎたのか、陽菜の目は今にもくっつきそうだ。 タオルを重ねた上に横にすると、コテンと寝入ってしまう。 俺の背中の方では、七海が荷物を整理している。 俺はといえば、遠くの海がきらめくのを見て、10年前のあの日のことをぼーっと思い出していた。 突然、俺の肩に七海が顔を乗せてきた。頬をぴったりと寄せて。 「あの夏のこと、思い出してたの?」 「……よくわかるな」 「つきあい長いし」 「そりゃそうだ」 「私の見てる景色は……あなたとおんなじだよ、あの日も、今も」 「!」 「ごめんね、あの時、私、半分目を覚ましてたんだ」 おまえの心の中で、 この風景はいったいどんな景色に見えてるんだろう…… あれ……聞かれてたのかよ…… 「あなたのひとりごとを聞いたとき、 あぁ、この人は私の心の痛みのすべてをわかってくれてるんだって、 ものすごく感動しちゃって」 「だから、なんかの加減で、私が100%混じりっけなしの女になれたら、 そのときはこの人と…って、そう心に決めたの、あの日」 驚きの告白だ。 あの時に、もうこいつは『七海』という名の女の子になっていた… …というわけか。 俺はなにも言わず、彼女を片手で抱き寄せる。 そしてワンピース越しに少しふくらんだおなかに触れる。 「どうしたの?」 「このコが生まれたらまたここに来ようって、そう思った」 「あと、七海の水着姿見られないのは残念だって、 ちょっとこいつに文句言った」 可愛く笑ったあと、七海は俺の目の前でそっと目を閉じる。 俺は無言で唇を重ねた。 耳元に届く潮騒の音が、ちょっとだけ大きくなったような…… そんな気がした。 fin |
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裏方
http://avec-toi.net/ 2008年11月10日(月) 17時45分54秒 公開 |
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